従業員が帰国した年度、帰国日前後の課税関係

こんにちは、山口国際税務会計事務所の山口善夫です。

前回は、従業員が海外に出国をして非居住者になった年度の確定申告等について見ていきましたが、今回はその逆で、海外に出向している従業員が日本に帰国をした年度の確定申告等の要否について確認していきます。

従業員は、1年以上の予定で日本に居住をすることから、入国の日の翌日から日本の居住者という扱いになります(所得税法2条1項3号)。

ポイントは、帰国をした年度においては、当該従業員には帰国前の非居住者の期間と帰国後の居住者の期間の両方がある点です。

課税の範囲

帰国した従業員の納税義務の範囲は、基本的には、帰国前の非居住者期間については国内源泉所得のみが対象となり、帰国後の居住者期間については全世界所得(国内源泉所得、国外源泉所得のどちらも)が課税対象となる、ということになります。(所得税法102条、同法施行令258条)。

 

 

仮に、帰国前の非居住者期間に給与賞与の支給がなされている場合には、非居住者なので国外勤務期間部分(=国外源泉所)は日本では課税されず、国内勤務期間部分(=国内源泉所得)があれは日本の課税対象になります。非居住者期間に生じた国内源泉所得は分離課税により(所得税164条2項)所得税の額を計算し、その額を後日日本の確定申告における所得税の額に加算するものと考えられます(同法施行令258条1項6号))。

しかし、帰国をしてから居住者期間に給与賞与の支給がなされた場合には、留意が必要です。次の賞与の例でみてみましょう。

帰国後に支払われる給与・賞与について。

例えば、賞与の計算期間を10月1日から3月31日までとし、帰国日が2月1日、賞与支給日が6月1日であったとします。この場合、10月1日から帰国日の2月1日までは帰国前の国外勤務期間に対応する部分(国外源泉所得)であり、2月2日から3月31日までは帰国後の日本での勤務期間に対応する部分(国内源泉所得)ということになります。

 

帰国後に当該賞与の支給を受けた6月1日の時点では、当該従業員は居住者です。居住者が課税される範囲は、全世界所得であるため(所得税法7条1項1号)、支給を受けた賞与のうち、国外勤務期間に対応する国外源泉所得も国内勤務期間に対応する国内源泉所得も両方とも日本での課税対象となります。よって会社は賞与の全額に対して源泉徴収をする必要があります(所得税法183条1項)。

この賞与計算対象期間に勤務していた国から見ると、その人は居住者であるため、外国での勤務期間に対応する部分に対しては、一般的には勤務した海外の国においても所得税を課されるでしょう(この点は国によって違いがあるようです。従業員が日本に帰国した後に支給された賞与で赴任先での負担がないのであれば課税はしない、という国も多くあるようです)。

なお、前回記事でみたように年度の中途で居住者から非居住者になる場合には、非居住者になった日以後に支払う給与で計算期間が1か月以下であるものについては、その給与の全額を国内源泉所得に該当しないものとして差し支えないという通達がありましたが(所得税通達212-5)、今回記事のように年度中途で非居住者から居住者になる場合にはそのような規定はなく、支払った給与・賞与の全額が課税の対象となります。

外国税額控除により還付された所得税は誰のものか

上記の賞与のうち国外勤務期間部分に対しては、通常勤務地の国においてもその国の所得税が課せされますが、外国所得税を会社(日本の親会社又は現地子会社)が負担をするケースが多いと思われます。この国外勤務部分については、外国と日本で二重に所得税が課税されているので、当該従業員は居住地国である日本において外国税額控除を適用して外国で課された税金を減額又は還付請求することができます(*)。外国税額控除の適用を受けて所得税の還付を受けた場合には、これのもととなった外国所得税を会社が負担したのであれば、還付を受ける所得税は会社に帰属させることが公平であると言えます。この点は、事前に会社の給与規定等に規定をして従業員には十分に周知しておくべきでしょう。従業員が受けた外国税額控除による還付金は会社に引き渡さなくてはならないという法律上の規定があるわけではなく、その方が公平であろう、ということです。

(*) 居住者が非居住者であった期間内に生じた所得に対して課される外国所得税の額は、外国税額控除の対象外と規定されています(所得税法施行令222の2第4項1号)。ではこれによって、非居住者期間を支給対象期間とする賞与は、それに対して課された二重課税に対して大国税額控除ができないのでしょうか。この点、税務書籍の中にも税務調査官の中にも混乱される方ががあるようです。詳細はこちらの記事です。

年末調整

年末調整については、帰国日以後に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出した居住者のうち、居住者となった以降に支払う給与等の金額が2千万円以下である場合には、帰国日以後年末までに給与等の支給期が到来するものを対象として行うこととなります(所得税法190条)。

社会保険料控除

帰国した年度の年末調整の対象になる所得控除については下記になります。

物的控除 社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、医療費控除 その者が居住者であった期間内に支払った金額が控除の対象になります。つまり、非居住者であった期間に給与から控除された社会保険料等は控除の対象にはなりません(所得税法73条、74条、76条、同施行令258条3項)。但し、フランスは例外です
人的控除 控除対象配偶者、控除対象扶養親族等 控除対象配偶者、控除対象扶養親族等に該当するかどうかの判定は12月31日の現況による(所得税法85条)。