海外赴任従業員が帰国した年度、帰国日前後の課税関係

今回は、海外赴任で出向している従業員が日本に帰国をして居住者になった年度の確定申告等の要否について確認していきます。(コロナ禍での一時帰国で日本に滞在している従業員は当面は非居住者です。こちらの記事をご覧ください)。あくまで日本の税法についての説明であり、外国の税法については別途確認が必要です。

居住者性と課税される所得の範囲と税額

帰国した従業員は、通常は1年以上の予定で日本に居住をすることから、入国の日の翌日から日本の居住者という扱いになります(所得税法2条1項3号)。

帰国をした年度においては、当該従業員には帰国前の非居住者の期間と帰国後の居住者の期間の両方があります。同じ2020年度ではあっても、非居住者の時に支給を受けた給与と、居住者の時に支給を受けた給与では、その課税の範囲が異なることがポイントです。

①非居住者であった期間に支給された給与所得

非居住者は、日本国内源泉所得があれば日本にて課税され、国外源泉所得があればそれは日本では課税対象外となります。赴任地国(国外)にて勤務した期間と、出張などで日本国内にて勤務した期間の両方がある場合、日本国内にて勤務した期間に対応する給与所得のみが、日本国内源泉所得という扱いになり日本で課税されます(所得税161条1項12号イ)。海外勤務期間に対応する給与に対しては、日本での課税はありません。

日本への出張やコロナ禍のために一時帰国した時などは、たとえ海外子会社のための業務を行っていた場合であっても、物理的に勤務した場所が日本であれば、それは国内源泉所得とされます。国内源泉所得に該当する給与所得については、給与所得×税率で計算した金額を分離課税の方法により申告することになります(所得税164条2項、169条)。所得税の税率は金額の多寡に関係なく20.42%です(同法170条)。

但し、出張による日本滞在が183日以内であれば、租税条約によって日本の所得税は免税となる可能性があります(短期滞在者免税)。

②居住者となってから支給された給与所得

居住者は、日本国内源泉所得か国外源泉所得かに関わらず、全世界所得に対して日本の所得税が課せられます(同法7条)。給与収入から一定の金額が控除(給与所得控除)され、さらに社会保険控除、生命保険控除、配偶者控除等の各種控除を受けたものが課税所得となり、これに対して税率を乗じて所得税を計算します。税率は金額の多寡に応じて5%から45%までの累進税率によって計算されます(同法89条)。

 非居住者の期間に支給された給与居住者の期間に支給された給与
課税の範囲国内源泉所得であれば日本で課税
国外源泉所得は日本では課税されない
全世界所得(国内+国外源泉所得)
給与国内勤務期間に対応する部分が国内源泉所得となり、日本で課税される。国内勤務期間対応部分のみならず、国外勤務期間に対応する部分も日本で課税される。
所得税の計算方法国内源泉所得×20.42%全世界所得×累進税率
実際の所得税の計算に際しては、損益通算、所得控除、税額控除などがありますが、ここでは割愛しています。

課税の方法

年の中途で非居住者が居住者となった場合には、居住者である期間内に生じた全世界所得と、非居住者であった期間内に生じた国内源泉所得の両方を計算し合算することになります(同法102条、同法施行令258条1項)。

①非居住者であった期間に確定した給与所得(国内源泉所得部分のみについて)

先に述べたように、非居住者は国内源泉所得のみに対して課税がなされます。例えば日本出張によって日本で勤務をした場合で、短期滞在者免税が適用されない場合には、その期間に対応する給与所得は国内源泉所得であるため日本にて課税されます。

その国内源泉所得である給与ですが、海外子会社によって海外にて支給される場合と、留守宅手当といった名目で日本親会社から国内にて支給される場合とで、課税の方法が異なります。

日本親会社によって国内にて支給される部分については、支給者である日本親会社が源泉徴収をして納税することになります(同法212条1項)。金額は、給与所得×20.34%です

 海外子会社が海外にて支給する部分については、支給があった年の翌年3月15日までに、給与所得×税率(20.42%、分離課税)により計算した所得税額について、従業員自らが(又は納税管理人が)確定申告をすることになります(同法172条)。たとえ給与収入の金額が2000万円未満であっても、確定申告が必要になると考えます(同法121条1項)。

②居住者であった期間に支給された給与所得

居住者の場合、全世界所得(国内源泉所得、国外源泉所得のどちらも)が課税対象になります(所得税法102条、同法施行令258条)。

帰国後の給与については、源泉徴収によって課税され(同法183条)、基本的には年末調整の対象となるので(同法190条)、確定申告の必要はありません。

しかし、(a) 給与収入金額が2000万円をこえる場合や、(b) 非居住者期間に国内勤務による給与所得がある場合(日本出張やコロナ禍での日本一時帰国中に支給された給与所得がある場合)で、(b-1) 且つそれを海外子会社による国外払によって支給された場合には、確定申告が必要になると考えます(同法121条)。(b-2) 国内勤務による給与所得を日本親会社によって国内払いによって支給された場合には、支給時に源泉徴収する方法によって課税済みなので、確定申告の必要はないと考えます(同法212条)。

非居住者の期間
国内源泉所得(出張、コロナ一時帰国による国内勤務)国外源泉所得(海外勤務)
国内にて支給国外にて支給 
→ 源泉徴収→ 確定申告→ 課税なし

税額の算定に際しては、居住者期間に係る給与所得と非居住者期間に係る給与所得とにを分けて算定します。居住者期間に係る給与所得は、他の所得と合算して課税総所得金額を算定し、累進税率を乗じることになります。非居住者期間に係る給与所得は、他の所得とは分離して、20.42%の税率を乗じて税額を算定します。そのうえで、居住者期間の給与所得にかかる税額と非居住者期間の給与所得に係る税額を合算することになります(同法施行令258条)。

実務的には、居住者期間の税額と非居住者期間の分離課税の税額を合計するような申告書の様式がないため、居住者期間の申告書と非居住者期間の分離課税の申告書(172条の申告書等)を別々に提出することになります(飯塚信吾「月間国際税務」2020年2月号)。

帰国後に支払われる給与・賞与について。

例えば、賞与の計算期間を10月1日から3月31日までとし、帰国日が2月1日、賞与支給日が6月1日であったとします。この場合、10月1日から帰国日の2月1日までは帰国前の国外勤務期間に対応する部分(国外源泉所得)であり、2月2日から3月31日までは帰国後の日本での勤務期間に対応する部分(国内源泉所得)ということになります。

帰国後に当該賞与の支給を受けた6月1日の時点(収入が確定した時点)では、当該従業員は居住者です。居住者が課税される範囲は、全世界所得であるため(所得税法7条1項1号)、支給を受けた賞与のうち、国外勤務期間に対応する国外源泉所得も国内勤務期間に対応する国内源泉所得も、両方とも日本での課税対象となります。よって会社は賞与の支給に際して、全額に対して源泉徴収をする必要があります(所得税法183条1項)。

この賞与計算対象期間に勤務していた外国から見ると、その人はその外国の居住者であったため、一般的には勤務した海外の国においても所得税を課されるでしょう(この点は国によって違いがあるようです。従業員が日本に帰国した後に支給された賞与で、外国子会社等の赴任先での負担がないのであれば課税はしない、という国も多くあるようです)。

なお、前回記事でみたように年度の中途で居住者から非居住者になる場合には、非居住者になった日以後に支払う給与で計算期間が1か月以下であるものについては、その給与の全額を国内源泉所得に該当しないものとして差し支えないという通達がありましたが(所得税通達212-5)、今回記事のように年度中途で非居住者から居住者になる場合にはそのような規定はなく、支払った給与・賞与の全額が課税の対象となります。

外国税額控除により還付された所得税は誰のものか

上記の賞与のうち国外勤務期間部分に対しては、通常勤務地の国においてもその国の所得税が課せされますが、勤務地の国での所得税を会社(日本の親会社又は現地子会社)が負担をするケースが多いと思われます。この国外勤務部分については、外国と日本で二重に所得税が課税されているので、当該従業員は居住地国である日本において外国税額控除を適用して外国で課された税金を減額又は還付請求することができます(*)。

外国税額控除の適用を受けて所得税の還付を受けた場合には、これのもととなった外国所得税を会社が負担したのであれば、還付を受ける所得税は会社に帰属させることが公平であると言えます。この点は、事前に会社の給与規定等に規定をして従業員には十分に周知しておくべきでしょう。従業員が受けた外国税額控除による還付金は会社に引き渡さなくてはならないという法律上の規定があるわけではなく、その方が公平であろう、ということです。

(*) 居住者が非居住者であった期間内に生じた所得に対して課される外国所得税の額は、外国税額控除の対象外と規定されています(所得税法施行令222の2第4項1号)。ではこれによって、非居住者期間を支給対象期間とする賞与は、それに対して課された二重課税に対して外国税額控除ができないのでしょうか。この点、税務書籍の中にも税務調査官の中にも混乱される方があるようです。詳細はこちらの記事です。