帰国後に支給された賞与 外国税額控除

「個人の外国税額控除パーフェクトガイド」廣瀬壮一著は名著だと思います。長らく疑問であり寝かせていた疑問が完璧に解消されました。税務の中でもかなりマニアックであり、個人の外税控除に関係のない人には、縁のないことではありますが、その疑問をご紹介します。

日本企業の海外勤務者が帰国した後に、海外勤務期間を対象とした賞与が支給された場合の日本での課税関係について以前記事でまとめました。ここでは、特に外税控除について確認します。

 

 

居住者が日本で課税される範囲は全世界所得ですから(所法7条1項)、国内源泉の所得も国外源泉の所得も日本で課税されます。上図の海外勤務期間(10/1-1/31)を対象とした賞与は国外勤務に起因するため国外源泉所得ですが、これに対しても日本の税金が課されることになります。

他方で、海外の国からみれば、その賞与はその国での勤務を起因として発生したものであり、その国の国内源泉所得ですから、通常はその国にて所得税が課されます。二重課税です。

税務の書籍には、この場合には「非居住者期間に発生した所得に対して課されるものである場合には、日本の外国税額控除の適用はありません」と書いているものがあります。その根拠は所得税法施行令222の2第4項1号とのことです。

「居住者がその年以前の年において非居住者であった期間内に生じた所得に対して課される外国所得税の額」は外国税額控除の対象となる外国所得税の額から除く。

つまり、本件における、非居住者の期間の勤務を起因とした賞与に対して課された外国所得税の額は、非居住者であった期間内に生じた所得であるから、例え二重課税の状況が生じたとしても、所得税法施行令222の2第4項1号を根拠に、外国税額控除は適用されない、とも読める解説になります。

前掲の「個人の外国税額控除パーフェクトガイド」の著者廣瀬氏の税理士会主催研修会での発言によると、国税の調査官の中にも、同じ根拠で外税控除が取れないと言ってくる人がいるそうです。

まさに二重課税が生じているのに外税控除が取れない?

この点、帰国後に支給された賞与で海外勤務期間を対象としたものに対して課された二重課税については、日本での外税控除の適用が可能であると考えます。

外国税額控除が適用されるためには、日本居住者である期間において生じた所得である必要があります(所得税法施行令222の2第4項1号)。

税務上、所得が生じた日とは収入金額を計上すべき日であり、給与所得の収入金額の収入すべき時期は、支給日とされています(所基通36-9(1))。

問題の、帰国後支給された賞与について、日本の所得税法上所得が発生したとされる日は、帰国後において実際にその支給があった日ということになります。つまり、この賞与に係る所得は日本居住者である期間において生じた所得であり、外国税額控除が適用されるべきものになります。

外国税額控除の制度趣旨からして妥当な結論だと思います。廣瀬氏によれば、この説明によれば税務調査官も理解をしてくれるとのことです。しかし、今後も、本件では外税控除はできない、と言ってくる税務調査官が出てくるであろうとの予想もされています。