今なお、コロナ禍で日本に一時帰国している従業員の方の日本滞在期間は相当の長期間になっていることと思われます。その方たちの、日本税務上の居住者性はどのように考えればよいのでしょうか。
日本の所得税法では、居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人を言います(所得税法2条1項3号)。
ここでいう「住所」とは、生活の本拠地という抽象的な意味です。日本に持家やマンションがあるといっても、日本帰国が一時的なものにすぎない場合には、生活の本拠が日本にあるとは言えません。
居所とは、個人の生活の本拠という程度には至らないものの個人が相当期間継続して居住する場所をいうと言われています。
「住所」という言葉が曖昧であることから法人税法施行令にて次の推定規定があります。
国内に居住することとなった個人が、継続して1年以上居住することを通常とする職業を有するときは、国内に住所を有する者と推定されます(同法施行令14条1項1号)。
又は、国内に居住することとなった個人が日本国籍を有し、かつ、その者が国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有することその他国内におけるその者の職業及び資産の有無等の状況に照らし、その者が国内において継続して1年以上居住する者と推定するにたりる事実があること(同令1項2号)。
もし会社の決定により、海外出向の任を解き日本への帰国を命じる、という辞令が発令されれば、それは日本に継続して1年以上居住する者と推定するに足りる事実になると考えられます。その発令の時点から、日本に生活の本拠を有すると推定されます。
この場合、一時帰国時から帰任命令が出るまでは非居住者に該当し、帰任命令後から居住者となります。
推定規定を待つまでもなく、一時帰国によって生活の本拠が日本に移った、ということを客観的に説明できるのであれば、その時点から日本の居住者ということになろうかと思われます。しかし、2020年4月発表のOECDガイドラインによると、コロナによる一時帰国によって、その者の居住者性は変更されないという見解が示されています。(参照)。
但し、帰任命令が出ないまま、日本で一時帰国を継続している場合でも、その期間が1年に到達すればその時点から居住者となります。
なお、日本での年間滞在日数が183日以上か否かは居住者、非居住者の判断に直接的な関係はありません。183日基準が関係するのは、短期間だけ滞在する非居住者が所得源泉地国(日本)での課税(所得税)を免除されるか否を判断する場合です。但し、外国の中には、183日基準をもって居住者、非居住者を判定する国も少なくはないようです。
住民票があるかどうかも、居住者、非居住者の判定には直接関係はしません。この点の詳細は、こちらの記事をご参照ください。
ちなみに、数カ月単位の海外出張を複数年にわたり繰り返す人の場合はどうでしょうか。例えば1年のうち10カ月は海外に勤務し、2カ月は日本で勤務する形態を複数年繰り返しているケースです。この点については、総合的・客観的にみてどちらの国に生活の本拠があるのかを検討することになります。
(一つの年度において非居住者から居住者となる場合の課税関係については、こちらを参照ください)。
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