外国人/外国企業が知っておくべき社会保障制度のポイント

1.日本社会保険制度 2つの特徴

1-1社会保険は税金並みに負担が大きい

日本の社会保障は充実しています。例えば幼児までの医療費は無償で提供され、高齢者は2割を自己負担、それ以外の人は3割を自己負担するのみです。しかしその分、企業及び従業員の社会保険料の負担は重いものとなっています。

従業員は給与の約15%を社会保険料として負担し、企業もまた約15%を負担しなくてはならいません。つまり、企業が人を一人を採用したら、実際に負担する金額は、給料の金額だけではなく1.15%×報酬となります。

税金と比較をしてみましょう。

・所得税:平均的なサラリーマンが負担する所得税の割合は給与額面に対しておおよそ12%(*)です。

・法人税:企業に課せられる法人税等は純損益に対して約33%です。

・消費税:消費者に課せられる消費税率は10%です。

これに対して個人及び企業が負担する社会保険料率はそれぞれ約15%であり、税金と同様に重い負担となります。日本進出を計画している外国企業は、日本の税金負担のみならず社会保険負担についても考慮をする必要があります。

(*) サラリーマンの年間平均給与523万円(国税庁令和4年民間給与実態統計調査)。所得控除は給与所得控除と基礎控除のみ、所得税率10%、住民税率10%と仮定した場合。

 

1-2正社員とパートアルバイトで、社会保険の負担が異なる

社会保険料率は、上記のように企業が約15%、従業員が約15%を負担しますが、これは正社員の場合です。いわゆるパートアルバイトとして短時間だけ働く人は、基本的には社会保険の負担はありません。社会保険制度において、どのような基準で正社員とパートアルバイトを区分するのかは、知っておいたほうが良いでしょう。

 

2.社会保険制度の概要

日本の社会保険制度は多岐にわたり複雑ですが、「会社」に関係する社会保険制度としては、「健康保険、介護保険」「年金保険」「労働保険」の3つを押させておけばよいでしょう。

下記は、3つの保険制度の概要を表にまとめたものです。

 

健康保険、介護保険

年金保険

労働保険

失業保険

労災保険

被保険者

原則は全ての従業員。一定の場合、パートアルバイトは免除

原則は全ての従業員。一定の場合、パートアルバイトは免除

次のいずれにも該当する労働者

・週20時間以上勤務

・31日以上の雇用見込みがある

全ての労働者

会社役員

被保険者になる。

被保険者になる

原則は被保険者にはならない

原則は被保険者にはならない

企業の保険料負担(*1)

40歳未満:報酬の4.99%

40歳以上:報酬の5.79%

9.15%

0.95%

0.3%(業種により異なる)

従業員の保険料負担(*1)

40歳未満:報酬の4.99%

40歳以上:報酬の5.79%

9.15%

0.6%

なし

(*1) 令和6年3月分からの東京都の保険料。県によって若干保険料率は異なります。

 

3.健康保険、介護保険

3-1内容

医療及び介護の支出があった時に保険金が給付されます。

 

3-2加入要件

原則は、外国人、会社役員を含め全ての従業員が健康保険・介護保険へ加入する必要があります。

しかし、パートアルバイトといった短時間労働者については、企業規模によって扱いが異なります。被保険者が51人未満の企業の場合、1週間の所定労働時間又は1か月の所定労働日数が正社員のおおむね4分の3未満のパートアルバイトについては、健康保険・介護保険への加入義務はありません。

例えば、ある会社の正社員の1週間の所定労働時間が40時間、1か月の所定労働日数が20日とします。パートアルバイトの人が1週間に30時間未満又は月15日未満の勤務であれば、その人及び会社は社会保険料を支払う義務はありません。

30時間以上且つ15日勤務となった月については保険料を支払い、それ以下の勤務時間となった月は保険料は支払わない、というように月によって支払い義務が変わるのではありません。明示的なルールはないようですが、実務的には30時間以上且つ15日勤務となる月が2、3ヶ月続くようであれば、社会保険加入の手続きをして毎月保険料の支払いをすることになると考えられます。

短時間労働者については、被保険者数が51人以上の企業の場合には、下記の条件の全てに該当する人は健康保険・介護保険への加入義務があります。

・週の労働時間が20時間以上

・賃金が月額8.8万円以上

・2か月を超える雇用の見込みがある

・学生ではない

 

3-3計算方法

保険料は「標準報酬月額×健康保険料率」で計算します。健康保険料率は、40歳未満であれば従業員負担は4.99%、会社負担は4.99%、40才以上の場合には従業員負担5.79%、会社負担5.79%です(令和6年3月分からの東京都の場合)。

標準報酬月額とは4、5、6月の3か月間の平均金額をいい、1年に1度、毎年7月算定します。新入社員の場合には4、5、6月の実績がないため、1か月の給与の見積金額を標準報酬月額とします。昇給などにより給与の月額が大きく変動する場合には、7月を待たずに標準報酬月額を変更します。

 

3-4納付方法

保険料の支払いは、企業が従業員の負担分を毎月の給与から天引きし、企業側の負担分と合わせて監督官庁に毎月支払います。企業の負担部分は損益計算書において「社会保険料」「法定福利費」と言った科目で処理されます。従業員負担部分は、企業が天引きをして納付するまでの1か月は貸借対照表の負債の部に、預り金として計上されます。

 

4.年金保険

4-1内容

企業の役員・従業員が加入する年金保険を「厚生年金」と呼びます。一定の年齢に達したとき、死亡したとき、障害を負ったときに保険金が給付されます。

 

4-2加入要件

加入要件は健康保険、介護保険と同じです。

 

4-3計算方法

計算方法は健康保険、介護保険と同じです。

 

4-4納付方法

納付方法は健康保険、介護保険と同じです。

 

4-5社会保障協定

外国人役員従業員は、既に本国の社会保険制度を負担している場合があり、日本でも社会保険を負担すると、二重負担となります。そこで、二重負担を緩和する趣旨から国同士が社会保障協定を締結している場合があります。

2024年9月現在、日本は、ドイツ、英国、韓国、米国、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン及びイタリアとの間でそれぞれ社会保障協定を結んでいます。これらの国の年金制度に加入している者が日本へ就労するために一時的に派遣される場合には、日本の年金制度への加入が免除されます。

年金保険だけが免除対象の場合もあれば、健康保険も含めて免除対象としている場合もあり、どこの国との社会保障協定なのかを確認する必要があります。

 

4-6保険料脱退一時金

外国人の場合、将来高齢になってから日本に居住しているとは限らず、年金を受取れない可能性があります。そこで外国人が6ヶ月以上の被保険者期間を有し、帰国したときは、一定の計算をした金額の還付を請求することができます。

 

5.雇用保険

5-1内容

労働者が失業をした時に保険料が給付されます。

 

5-2適用要件

次のいづれにも該当する労働者は、原則として被保険者になります(*1)。

① 1週間の所定労働時間が20時間以上であること。

② 31日以上の雇用見込みがあること。 

健康保険、介護保険と異なり、会社役員は、原則として被保険者となりません。

ただし、会社の役員と同時に部長、支店長、工場長等の従業員としての身分を有する者は、服務態様、賃金、報酬等からみて、労働者的性格の強いものであって、雇用関係があると認められる場合に限り、雇用保険に加入できます。

海外本社等からの赴任者で、海外で雇用保険に相当する制度に加入している者は免除される(雇用保険に関する業務取扱要領令和6年10月1日以降20352ホ在日外国人)。

 

5-3計算方法

雇用保険の計算方法は「実際の賃金×雇用保険率」です。健康保険・介護保険と異なり、給与の平均値ではなく、実際の毎月の給与金額を用いて算定します。

 

5-4保険料の申告・納付方法

健康保険・介護保険と異なり、1年に1度、年間概算保険料を計算して納付し、翌年度に前年度の確定保険料と翌年度の概算保険料の差額を調整して納付することになります。これを「年度更新」といいます。

(*1)海外本社等からの赴任者で、海外で雇用保険に相当する制度に加入している者は、免除される場合があるようです(ジェトロHP)。

 

6.労災保険

6-1内容

労働者が業務中または、通勤中の災害により被った負傷・疾病・障害・死亡に対して保険金が給付されます。

 

6-2適用要件

原則は全ての労働者に適用されます。但し、法人の役員及びその同居親族には適用されません。

 

6-3納付方法

雇用保険と同様です。

 

6-4保険料

保険料率は、その事業所の事業の種類により異なり、最高で8.8%(金属・非金属・石炭鉱業)、最低で0.25%(金融業、保険業、通信業、放送業等)です。保険料は事業主のみが負担し、労働者は負担しません。

 

7.子ども子育て拠出金

上記以外に、児童手当の支給原資として、企業は標準月報酬×負担が率0.36%、従業員の負担はありません。

 

8.給与、社会保険料計算の具体例

毎月の給与計算がどのようになるのか、下記に見ていきます。

前提事項

 

月 給与額面

520,000円

月 定期代

10,000円

月 残業代

30,000円

月 給与総額

560,000円

年齢

40歳以上

標準報酬月額

530,000円

 

会社負担分

従業員負担分

健康保険料、介護保険料

530,000*5.79%=30,687

530,000*5.79%=30,687

厚生年金保険料

530,000*9.15%=48,495

530,000*9.15%=48,495

雇用保険料

560,000*0.95%=5,320

560,000*0.6%=3,360

労災保険料

560,000*0.25%=1,400

N/A

 

85,902

82,542

会社が従業員給与から天引きする金額は82,542円、会社が負担する社会保険料は月85,902円になります。

 

9.まとめ

・企業が関係する社会保険制度は、健康保険、年金保険、労働保険の3つの制度があります。

・企業の負担は、給与額面の約15%であり毎月納付します。

・加入要件は正社員かパートアルバイトかによって異なり、勤務時間が正社員の4分の3未満かどうかによります(健康保険・介護保険の場合)。

 

 

参考記事

海外勤務者の日本社会保険料の負担

海外赴任従業員が帰国した年度、帰国日前後の課税関係

会社設立決定すべき事項