日本支店の外国人に係る源泉徴収、確定申告の要否

前回は、海外にて勤務する外国人の方が日本に短期出張で勤務をした場合、これに係る給与については源泉徴収が必要か、確定申告は必要か、を確認しました。


前回確認した所得税の基本原則は、下記の二つでした。
  1. 非居住者に対して国内にて給与の支払いをする場合、源泉徴収する義務があります(所得税法212条1項)。
  2. 非居住者が日本国内源泉所得となる給与の支払いを受ける場合で、それが源泉徴収されない場合、確定申告書の提出を要することになります(所得税172条1項)。
今回は、海外の会社(外国法人A社)に勤務するA氏が、A社の日本支店に短期出張する場合に、これに係る給与について源泉徴収は必要か、確定申告は必要かについて見ていきたいと思います。前回との違いは、日本に外国法人A社の拠点(支店等)があるか否かです。 なお、日本の支店ではなく日本の子会社に派遣された外国人の場合はこちらの記事をご覧ください。


国内法での取扱い

外国法人日本支店の 外国人A氏の居住者性

海外から日本に来たA氏が日本の税法上居住者になるのか非居住者のままなのかによって、結論に影響が出てきます。 ここでは、短期出張なので1年未満であり非居住者のままであるとします。 居住者と非居住者の区分の詳細は国税庁のこちらを参照してください。


国内源泉所得の有無

A氏は非居住者であると仮定しました。非居住者については、一定の国内源泉所得がある場合にのみの日本で課税されます。 A氏の給与のうち、A氏が日本に短期出張した期間に対応する部分は国内源泉所得に基づくものであるため、この部分は日本での課税の対象になります(所得税161条1項12号イ)。


外国法人A社による源泉徴収の要否

海外から日本の支店に派遣されているA氏の給与は、A氏を雇用している外国法人A社の本社が国外にて支払いを行う場合と日本国内にある支店が国内にて支払いを行う場合とがあると思われます。例えば基本給部分は国内の支店が支払いをするが、家族手当て部分は海外の本店が支払いをするというように。 ここで関係する所得税の基本原則は次です。


非居住者に対して国内にて給与の支払いをする者は、源泉徴収する義務を負います(所得税法212条1項)。別の言い方をすると、非居住者に対して国外で支払いをする者(A社)には源泉徴収義務はないことになります。 但し、この国内源泉所得の支払が国外で行われる場合であっても、その支払いをする者が国内に事務所や事業所、支店等の拠点を有する場合には、その支払者が国内にて支払いをしたものとみなして、その支払い者は源泉徴収義務を負います(所得税法212条2項)。


 つまり、非居住者A氏に対して外国法人A社が国外にて給与の支払いをした場合であっても、A社が日本国内に事務所や事業所等の拠点を有しているときは、A社は国内で支払いをしたものとみなすこととし(212条2項)、A社は源泉徴収義務を負うものと規定されています(212条1項2項)。 なお、A社の日本支店がA氏に対して支払いをした場合には、「非居住者に対する」「国内での支払い」に該当するため、原則通り日本支店には給与の支払い時には源泉徴収義務があります。


非居住者A氏の日本での確定申告の要否

上記のようにA氏がA社から給与の支払いを受けた場合、それが海外口座にて支払いを受けた場合にも、A社の日本支店にて支払いを行った場合であっても、どちらの場合にもA社は国内にて支払いをしたものとみなされ、源泉徴収をしなくてはなりません。その場合の確定申告はどうなるのでしょうか。 非居住者が日本国内源泉所得となる給与の支払いを受ける場合で、それが源泉徴収されない場合、確定申告書の提出を要することになります(所得税172条1項)。非居住者であるA氏は源泉徴収をされたことから、日本での確定申告は不要となります。


租税条約の適用について

上記に見たように、国内税法の規定による場合、A氏の給与は日本の所得税法の規定によって源泉徴収をされることになります。 他方で、A氏はA国の居住者であることから、A国の税法によって、A国においても日本での給与所得に対して課税がされる場合があります。その場合、A氏は日本とA国とで二重に課税されることになってしまいます。このような二重課税を防ぐために、租税条約に規定する「短期滞在者免税」の要件に該当すれば、所得の源泉地である日本での課税は免除されて、A氏の居住国であるA国の税金のみが課されることになります。


短期滞在者免税の要件を見ていきましょう。 ①183日ルール 当該課税年度において開始または終了するいずれの12か月の期間においても、日本での滞在が183日を超えないこと。 ここではA氏はこの要件を満たしているものとします。 ②その個人の給与等が日本の居住者ではない雇用者から支払われるものであること。 ここでは、A氏の給与を負担した外国法人A社は日本の居住者ではないので、この要件を満たすことになります。 ③その個人の給与が国外にある雇用主の日本国内の恒久的施設によって負担されないこと。


③について。 A氏の給与が日本にある支店等の恒久的施設によって負担された場合、③の要件を満たさないことになり、A氏は短期滞在者免税の特典を受けることはできなくなります。この要件の趣旨は、もしA氏の給与が日本にある支店によって負担されると、その支店の日本での所得が減少して日本の法人税が軽減されることになりますが、そのうえにAの所得税についても給与所得課税を免除すると、A氏の保護としては過大と考えられているからとのことです。(仲谷等共著「国際取引と海外進出の税務」税務研究会出版局P679)。 他方で、A氏の給与が海外の本店にて負担されていれば、③の要件は満たすことになります。一定の手続きのもとA氏は短期滞在者免税の特典をうけることになり、日本での課税が免除されます。


結論です。


海外の会社(A社)に勤務するA氏が、日本にあるA社の支店に短期出張する場合にはこれに係る給与については源泉徴収/確定申告が必要かですが、A氏の給与が海外の本店にて負担されていれば、租税条約の届け出書を提出することによって租税条約の短期滞在者免税の規定が適用されて、A氏には日本での課税が免除され、源泉徴収も確定申告も不要となります。他方でA氏の給与が日本の支店によって負担された場合は、短期滞在者免税の規定は適用されず、A氏は源泉徴収され、確定申告は不要となります。



(*)非居住者に対する支払の場合、国内払いか国外払いかで給与支払いをする会社の源泉徴収義務の有無が変わってくるため、何をもって国内払いか国外払いかとする基準は重要です。この点、裁決事例にて該当するものがあります。平成23年6月28日採決(裁決事例集83集)。http://www.kfs.go.jp/service/MP/02/1101000000.html#a83 本記事は2019年12月15日時点の日本の法令等に基づいています。