前回までに引き続き、海外(A国)の会社(A社)から外国人(A氏)が日本に派遣されて来た場合、源泉徴収されるのか、確定申告は必要かを見ていきます。今回はその第3回目です。
第1回目は、外国法人A社に勤務する外国人A氏が日本に短期出張で来たケース場合
第2回目は、外国法人A社に勤務する外国人A氏が日本にある支店に短期出張で勤務するケースでした。
第3回目である今回は、外国法人A社に勤務する外国人A氏が日本にある子会社(いわゆる外資系企業)に従業員として勤務する場合です。
今回第3回目と第2回目と違いですが、第2回目は赴任先が日本支店、第3回目は日本子会社という点が違います。支店は法的にはA社自身ですが、日本子会社は法的にはA社とは別の法人格になります。
本記事では、非居住者には恒久的施設がないことを前提としています。
A氏の居住者性ですが、A氏は非居住者のままの場合と居住者になる場合の2つの場合を見ていきます。
居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引続いて1年以上居所を有する個人を言い(所得税法2条1項3号)、それ以外の個人を非居住者と言います。
(参考 非居住者が居住者になる時点)
下記のようにケースを分けて課税される範囲/源泉徴収の要否/確定申告の要否/租税条約の適否を見ていきます。
非居住者のままであるA氏の給与を国内子会社が負担する場合。
非居住者のままであるA氏の給与を海外の親会社が負担する場合
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居住者(非永住者)になったA氏の給与を国内子会社が負担する場合
居住者(非永住者)になったA氏の給与を海外の親会社が負担する場合
非居住者が国内源泉所得を有するときには日本で所得税が課税されます(所得税法161条)。国外源泉徴収に対しては課税はされません。
給与所得についていえば、国内にて勤務した期間に係る給与は国内源泉所得とされ日本で課税され、国外にて勤務した期間に係る部分は国外源泉所得とされ日本では課税されません。
非居住者(A氏)に対し、国内において給与の支払いをする場合には、その支払者(Subsidiary)は源泉徴収をする必要があります(所得税法212条1項)。税率は20.42%です(所得税法213条、復興特別所得税)
非居住者が源泉徴収をされた場合、確定申告の必要はありません(所得税法172条1項)。
A氏が居住者となっているA国と日本の間に租税条約が締結されている場合には、一定の手続きのもと短期滞在者免税が適用されて、日本での課税が免除される可能性があります。
短期滞在者免税が適用されるのは、日本以外の国の企業に雇用された者が、日本で比較的短期間勤務することにより、その雇用主から受取る給与部分に限られます。
一般的に要件は次の3つ全てを満たすことです。
①日本滞在期間が183日を超えないこと
②その個人の給与等が日本の居住者ではない雇用者から支払われるものであること。
③その個人の給与が雇用主の日本国内の恒久的施設(例えば支店)によって負担されないこと。
本件について見ると、A氏の滞在期間は183日以内であるが、A氏の給与は日本の居住者である雇用主(日本子会社)によって負担されているので②の要件を満たさず、短期滞在者免税の規定の適用はないことになります。
非居住者はその国内源泉所得に対してのみ日本で課税されます。給与については、国内勤務期間に係る給与は国内源泉所得となります。給与の支払いを海外親会社が負担したのか日本子会社が負担したのかは関係がありません。
原則として、非居住者に対し国外において支払いをする場合、その支払者には源泉徴収義務はありません(所得税法212条1項)。(但し、その支払者が国内に支店等の事業所を有している場合には国内にて支払いがあったものとみなされて源泉徴収義務が発生します)。
非居住者が源泉徴収を受けていない場合、その年の翌年3月15日までに日本で確定申告をする必要があります。3月15日前に国内に居所を有しないことになる場合にはその有しなくなることとなる日までに確定申告が必要であり、そこでの税率は20.42%になります(所得税法172条1項)。
先ほどのように日本子会社が給与負担する場合とは異なり、日本の居住者ではない海外親会社から給与が支払われることから、②の要件を満たすことになり、短期滞在者免税の適用があるものと考えられます。
居住者は永住者と非永住者で別れます。非永住者とは居住者のうち日本国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において、国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である人を言います。非永住者以外の居住者を永住者といいます。
永住者と非永住者では、課税される所得の範囲が異なります。
非永住者が課税されるのは、国外所得以外の所得(≒国内源泉所得)、国外所得のうち日本にて支払いを受けたもの、又は日本に送金されたものです。
区分 | 国外源泉所得以外外の所得(≒国内源泉所得) | 国外源泉所得 | ||||
国内払い | 国外払い | |||||
居住者 | 永住者 | 課税 | ||||
非永住者 | 課税 | 送金課税 | ||||
非課税 | ||||||
非居住者 | 課税 | 非課税 |
*1 国内源泉所得(所得税法161条)と国外源泉所得(所得税法95条4項)以外の所得はイコールではありませんが、便宜上≒としています。
(非永住者の課税範囲についてはこちら)
非永住者である従業員A氏についていえば、国内勤務期間に対応する部分は国内源泉所得であり日本で課税されます。また、国外勤務期間に対応する給与は、日本にて支払い又は送金を受けた場合にのみ日本で課税されます。
例えば、A氏が母国に帰国してそこで短期間だけ勤務をした場合、その国外での勤務期間に対応する給与は国外源泉所得です。日本子会社がその分の給与を国内にて支給した場合、国外源泉所得が国内にて支払われているため、日本で課税されることになります。
国内勤務期間に対応する給与についても、国外勤務期間に対応する給与についても、居住者であるA氏は毎月の給与から源泉徴収をされます(所得税法183条1項)。
原則として居住者は確定申告をしなくてはなりません(所得税法120条1項)が、源泉徴収と年末調整を受けている場合で給与所得が2千万円以下である場合等、一定の場合には、確定申告をする必要はありません(所得税法121条1項)。
サラリーマンをしているほとんどの居住者は、会社が源泉徴収と年末調整をしてくれ、年収も2千万円以下であれば確定申告を要しないことになりますが、より詳細な要件はこちらの国税庁のサイトを参照してください。
短期滞在者免税については、日本に短期滞在している非居住者についての規定であり、本件ではA氏は日本の居住者になっていることから短期滞在者免税の適用はないと考えられます。
結論としては、居住者となるA氏(従業員)は源泉徴収をされ、(多くの場合)確定申告は必要ありません。
海外親会社が支給する給与のうち、国内勤務期間に係るものは国内源泉所得として日本にて課税されます。国外勤務期間に係るものは、海外で支払われる国外源泉所得であるため日本での課税はありません。但し、それが日本に送金された場合には課税されることになります。
居住者の給与の支払いについては、国内にて支払いが行われた場合には、その支払者は源泉徴収をしなくてはなりません(所得税法183条1項)。国外にて支払いがなされた場合には源泉徴収義務はありません。
海外親会社が国外にて行った給与の支払いのうち、国内勤務期間に対応する部分は、国外での支払いであるため源泉徴収義務はありません。国外勤務期間に対応する部分は国外源泉所得であるため、日本での課税の対象ではなく源泉徴収は不要です。
海外親会社が支給した給与のうち、A氏の国内勤務期間に対応する給与について、源泉徴収がなされていません。そこで、A氏には確定申告をする必要があります(同法120条1項)。
海外親会社が支給した給与のうち、A氏の国外勤務期間に対応する給与については、日本での課税の対象ではないため確定申告は不要となります。但し、日本に送金された場合には課税の対象となるため、確定申告が必要になると思われます。
国内子会社は年末調整を行います。国内子会社は親会社A社が支払った給与については年末調整の対象には含めないことになると考えられます。所得税法190条の規定により行う年末調整は、扶養控除等申告書の提出を受けた給与の支払者が支払った給与について行うことを原則としているためです。
短期滞在者免税の適用
短期滞在者免税については、日本に短期滞在している非居住者についての規定であり、本件ではA氏は日本の居住者になっていることから短期滞在者免税の適用はないと考えられます。
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