日本へ出張した外国人に係る源泉徴収、確定申告の要否

海外の会社から外国人の方が日本に派遣されてきますが、そこにはいくつかのパターンがあるとおもいます。それぞれのパターンごとに外国人の方は確定申告が必要か否か、について見ていくことにします。

第1のケースは、海外の会社に勤務する外国人が短期出張で日本に派遣される場合、

第2のケースは、海外の会社に勤務する外国人が日本にある拠点(支店)に派遣される場合、

第3のケースは、海外の会社に勤務する外国人が日本子会社(いわゆる外資系企業)にその従業員として派遣される場合、

第4のケースは、海外の会社に勤務する外国人が日本子会社にその役員として派遣される場合です。

第1回目の今回は外国人が短期出張で日本に派遣されてくる場合です。日本には事務所や支店といった拠点がないという前提です。

例えば、ある海外の会社が日本進出を考えている場合、まずはその従業員を日本に短期出張させていろいろと現地調査をさせることがあると思います。又は、日本で商談があるということで海外の会社からその従業員を日本に派遣することがあると思います。

海外の会社を外国法人A社、A社が所在する国をA国、日本に来る外国人をA氏とします。


外国人A氏の居住者性

A氏が日本の居住者なのか非居住者なのかによって日本での課税関係が違ってくるので、A氏の居住者性を確認します。居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引続いて1年以上居所を有する個人を言います(所得税法2条1項3号)。外国人A氏の場合、日本には短期出張で来ているだけでその期間は1年間を超えないのでA氏は非居住者のままであると仮定します

(参考 非居住者が居住者になる時点


国内源泉所得の有無

非居住者は、居住者とは課税のされ方が違い、一定の国内源泉所得がある場合にのみ日本にて所得税を課税されます(所得税5条2項)。国内源泉所得とはその所得の発生要因が国内にあるものを言いますが、例えば日本で勤務したことにより支給された給与所得(所得税法161条1項12号)、日本にある不動産を賃貸することによる不動産所得(同7号)などです。

本件では、非居住者A氏が受取る給与の中には、A氏が日本に短期出張した期間に対応する部分があるはずです。その部分は国内源泉所得であり日本での課税の対象になります(所得税161条1項12号イ)。


給与を支払うA社の源泉徴収義務の要否

A氏のように短期出張で日本に来た外国人の給与を支払うのは、A氏が勤務する外国法人(A社)であり、その支払いは国外でなされるでしょう。

所得税法上、非居住者に対して、国内にて(*)国内源泉所得である給与の支払いをする者は、源泉徴収する義務を負いますが、国外にて支払いをする場合には源泉徴収義務はありません(所得税法212条1項

本件にあてはめると、非居住者のA氏に対して国外にて給与の支払いをするA社は、源泉徴収義務を負わないことになります。

(*)例外として、非居住者に対して国内源泉所得の給与の支払が国外において行われる場合であっても、その支払者(外国法人A社)が日本国内に事務所や支店といった拠点を有する場合は、外国法人A社が国内において支払うものとみなす、という規定がされており、この場合A社には源泉徴収義務があることになります(212条1項2項)。このことは次回2回目で確認します。


外国人A氏の確定申告の要否について

非居住者が日本国内源泉所得となる給与の与の支払いを受ける場合で、それが源泉徴収されない場合、給与所得者は確定申告書の提出を要することになります(所得税172条1項)。 

源泉徴収されていないのであれば、その人の所得から税金を取るためには確定申告をしていただく必要がある、ということです。

 非居住者A氏は、源泉徴収をされていないため日本の税金をまだ支払っていません。そこでA氏には日本での確定申告の義務を課す、ということになります。

A氏には旅費、交通費も支給されることになると思われますが、所得税法上旅費交通費は非課税とされています(所得税9条1項4、5号)。非居住者か居住者かの区別はありません。


租税条約の取扱いー短期滞在者免税

海外の会社に勤務する外国人の方が、日本に短期間出張で来日した場合、上記に見たように、日本滞在中に働いた給与部分に対しては日本の所得税が課されます。と同時に、多くの場合A国でもこの日本源泉所得の部分に対して所得税が課されることになるでしょう(全世界所得課税)。つまり日本と本国の二重課税が起きます。

海外出張=二重課税ということになれば、交際的な人的交流や国際的な取引を阻害することになるので、この阻害要因を緩和すべく、租税条約では短期間しか滞在しない外国人のために短期滞在者免税に関する規定を設け、一定の条件のもと、人的役務提供地(この例では日本)での課税を免除しています(短期滞在者免税)。

短期滞在者免税が適用されるための条件としては、下記の3つのいずれをも満たす必要があります。どこの国との租税条約かによって若干の違いがあるようですが、ここではOECDモデル租税条約について確認します。

① 183日基準(*) 給与を受け取る者(A氏)の源泉地国(日本)での滞在が183日を超えないこと

(*)当該課税年度において開始または終了するいずれの12か月の期間(any twelve month period)においても、日本での滞在期間が183日を超えないことが必要です。例えば、ある課税年度の後半の5カ月半と翌課税年度の最初の5カ月半の合計11カ月滞在した場合には、183日を超えることになります。

② その個人の給与等を支払う雇用者(A社)が源泉地国(日本)の居住者でないこと。

その非居住者であるA氏の給与を支払う雇用者A社は、勤務が行われた(=源泉地国である)日本の居住者ではないのでこの要件を満たします。

③ その個人の給与等が雇用者(A社)の恒久的施設(日本支店等)によって負担されないこと。

A社は日本には恒久的施設(支店など)はないので、ここでは該当ありません。

以上より、A氏は租税条約上の短期滞在者免税の要件を満たすので、一定の手続きのもとA氏には源泉地国(日本)での課税は免除され、源泉徴収も確定申告も必要はありません。

本記事は2019年12月5日時点の法令に基づいています。