外国法人による日本子会社設立

はじめに

外国法人が発起人となって日本に子会社を設立する場合、外国法人特有の考慮すべき事項があります。

本記事の内容は

この記事の次を前提としています。

「株式会社を設立」「発起設立」、「日本に会社設立の協力者がいる」。

なお、ここでの協力者とは、会社設立の専門家、日本にて採用するの日本人の役員及び従業員等のことを言います。

 

外為法上の事前届出、事後報告制度

国家安全保障上の理由から、外国人投資家が日本企業の株式取得、会社設立等を行う場合には、事前に日本銀行等に対して届出が必要なケースがあります。

事前届出該当業種には

  • 武器
  • 航空機
  • 宇宙分野
  • サイバーセキュリティー業
  • 電力業
  • 情報通信業
  • ソフトウェアの製造業

などが該当します。

事前届出の届出者は外国人投資家自身ですが、外国人投資家が非居住者である場合や外国法人である場合には、居住者である代理人が行わなければならないと規定されています。審査には2週間から4週間ほどかかり、承認を得てからでないと会社設立の登記申請はできないとされています。

 

資本金の払込口座の確保

会社設立に際しては、資本金を払込むための銀行口座を用意する必要があります。原則として、発起人個人の銀行口座が資本金の払込先口座になります。

資本金の払込先の銀行口座として認められているのは下記です。

  • 内国銀行の日本国内本支店
  • 外国銀行の日本国内支店(内閣総理大臣の認可を受けて設置された銀行)
  • 内国銀行の海外支店

外国法人が発起人の場合、通常は日本に銀行口座を保有していないため、資本金の払込先口座をどうやって準備すべきかが問題となります。

この点、発起人が銀行口座を保有していない場合には、設立時取締役の銀行口座に振り込みをすればよく、設立時代表取締役が銀行口座を保有していないときには第三者の銀行口座でよいとされています。

そのため、資本金の払込みを一時的に受け入れてくれる第3者を確保する必要があります。

例えば、日本採用の日本人役員か従業員、会社設立実務をサポートする税理士や司法書士、弁護士などの専門家の中には、個人の銀行口座への資本金払込を承諾する場合があります。

このような第3者を確保できない場合、資本金の払込ができないため、会社設立は困難になります。

 

法人の銀行口座開設

晴れて会社が設立された後に、会社の法人口座を開設することになりますが、日本子会社の役員が外国人のみである場合、いわゆるネット銀行を除いて口座開設に応じない銀行が多いと思われます。銀行約款、契約書等を読めず銀行取引を理解できないためです。

下記は、筆者の知り合いの会社設立コンサルタントから聞いた話です。

最近は(2024年6月現在)日本人役員がいるにもかかわらず口座開設に応じないケースが出てきている。日本人が実際に事業には関与しない名目だけの役員であることが理由かもしれない。

 

宣誓供述書の作成

日本法人が発起人となる場合、定款認証に際して会社登記簿と会社代表者の印鑑証明書を提出します。外国法人が発起人となる場合、登記簿謄本及び印鑑証明書がないため、そのかわりとして宣誓供述書を作成することになります。

宣誓供述書には、日本の会社登記簿に記載がある事項を宣誓し、それに対して本国の公証役場等にて認証を受ける必要があります。

宣誓供述書の記載内容については決まったフォームが公表されていません。詳しくは、定款認証を受ける日本の公証役場にて詳細を確認しましょう。

定款認証には、全ての発起人が参加することが原則ですが、日本人の発起人のみが参加する場合には、他の発起人から委任状を受ける必要があります。

なお、合同会社を設立する場合ばあには、定款認証は不要であるため、宣誓供述証書の作成は不要です。

 

サイン証明書

宣誓供述書の提出に際しては、発起人となる外国法人代表者のサイン証明書が必要であり、これは本国の認証を受ける必要があります。

定款認証の場面以外にも、登記申請に際して印鑑届出を行う場面でもこのサイン証明書が必要となります。

 

実質支配者に関する申告書

株式会社の場合、定款認証に際して実質支配者に関する申告書の提出が必要となっています。これは犯罪収益移転防止法に基づく措置の一つで、法人による銀行口座開設の場面でも提出が必要となります。

実質的支配者とは、

  • ①設立する会社の50%を超える議決権を有する自然人
  • ②それがいない場合には25%を超える議決権を有する自然人
  • ①②のいずれにも該当する者がいない場合には、出資、融資、取引その他の関係を通じて設立する会社の事業活動に支配的な影響力を有する自然人

のことです。

発起人となる外国法人等の株主名簿、実質的支配者の身分証明書などが必要になりますが、事前に公証役場に確認をしておくとよいでしょう。

 

会社住所の確保

登記申請に際しては、登記申請書には会社住所を記載する必要があります。しかし、まだ会社が存在していないため、会社が事務所を賃借することはできません。そこで、下記のような方法が一般的です。

日本人役員か日本人協力者が個人の名義で契約締結し、会社登記完了後に会社名義に変更する。

英語による契約が可能なサービスオフィス(Regus、Servcorp、Wework、バーチャルオフィスなど)を利用し、発起人である外国法人が直接契約し、登記完了後に日本子会社名義に変更する。

登記申請書には日本人役員か日本人協力者の自宅住所を記載し、会社登記完了後に日本法人名義で事務所を賃借する。