外国法人による日本子会社設立

外国法人が発起人となって日本に子会社を設立する場合、外国法人特有の考慮すべき事項について解説をしていきます。

外為法上の事前届出、事後報告制度

国家安全保障上の理由から、外国人投資家が日本企業の株式取得、会社設立等を行う場合には、事前に日本銀行等に対して届出が必要なケースがあります。
事前届出該当業種には
  • 武器
  • 航空機
  • 宇宙分野
  • サイバーセキュリティー業
  • 電力業
  • 情報通信業
  • ソフトウェアの製造業
などが該当します。
事前届出の届出者は外国人投資家自身ですが、外国人投資家が非居住者である場合や外国法人である場合には、居住者である代理人が行わなければならないと規定されています。審査には2週間から4週間ほどかかり、承認を得てからでないと会社設立の登記申請はできないとされています。

参考記事:外為法による対内投資に係る事前届出制度とは

資本金の払込口座の確保

会社設立に際しては資本金を払込む必要がありますが、株式会社と合同会社の場合で違いがあります。株式会社の場合には、出資の払込みは銀行口座にて行う必要がありますが(会社法34条)、合同会社の場合には必ずしも銀行口座は必要ではなく、代表社員が出資の払込を証する領収書を発行することで足ります。 出資金払込用の銀行口座を準備できない場合、株式会社の設立は不可であり、合同会社の設立に限定されると考えられます。 株式会社の場合、原則として、発起人個人の銀行口座が資本金の払込先口座になります。資本金の払込先の銀行口座として認められているのは下記です。
  • 内国銀行の日本国内本支店
  • 外国銀行の日本国内支店(内閣総理大臣の認可を受けて設置された銀行)
  • 内国銀行の海外支店
外国法人が発起人の場合、通常は日本に銀行口座を保有していないため、資本金の払込先口座をどうやって準備すべきかが問題となります。 この点、発起人が銀行口座を保有していない場合には、設立時取締役の銀行口座に振り込みをすればよく、設立時取締役が銀行口座を保有していないときには第三者の銀行口座でよいとされています。 そのため、資本金の払込みを一時的に受け入れてくれる第三者を確保する必要があります。 例えば、日本採用の日本人役員か従業員、会社設立実務をサポートする税理士や司法書士、弁護士などの専門家の中には、個人の銀行口座への資本金払込を承諾する場合があります。

参考記事:資本金の金額の決定

法人の銀行口座開設

晴れて会社が設立された後に、会社の法人口座を開設することになりますが、日本子会社の役員が外国人のみである場合、いわゆるネット銀行を除いて口座開設に応じない銀行が多いと思われます。経営者が外国人の場合、銀行約款や契約書等を読めず銀行取引を理解できない恐れがあるためです。

また、最近は(2024年6月現在)日本人役員がいるにもかかわらず口座開設に応じないケースが出てきているようです。 日本人が実際に事業には関与しない名目だけの役員であることが理由かもしれません。

宣誓供述書の作成

日本法人が発起人となる場合、定款認証に際して会社登記簿と会社代表者の印鑑証明書を提出します。外国法人が発起人となる場合、登記簿謄本及び印鑑証明書がないため、そのかわりとして宣誓供述書を作成することになります。
宣誓供述書には、日本の会社登記簿に記載がある事項を宣誓し、それに対して本国の公証役場等にて認証を受ける必要があります。
宣誓供述書の記載内容については決まったフォームが公表されていません。詳しくは、定款認証を受ける日本の公証役場にて詳細を確認しましょう。
定款認証には、全ての発起人が参加することが原則ですが、日本人の発起人のみが参加する場合には、他の発起人から委任状を受ける必要があります。
なお、合同会社を設立する場合ばあには、定款認証は不要であるため、宣誓供述証書の作成は不要です。

サイン証明書

宣誓供述書の提出に際しては、発起人となる外国法人代表者のサイン証明書が必要であり、これは本国の認証を受ける必要があります。
定款認証の場面以外にも、登記申請に際して印鑑届出を行う場面でもこのサイン証明書が必要となります。

実質支配者に関する申告書

株式会社の場合、定款認証に際して実質支配者に関する申告書の提出が必要となっています。これは犯罪収益移転防止法に基づく措置の一つで、法人による銀行口座開設の場面でも提出が必要となります。 実質的支配者とは、
    • ①設立する会社の50%を超える議決権を有する自然人
    • ②それがいない場合には25%を超える議決権を有する自然人
    • ①②のいずれにも該当する者がいない場合には、出資、融資、取引その他の関係を通じて設立する会社の事業活動に支配的な影響力を有する自然人
のことです。 発起人となる外国法人等の株主名簿、実質的支配者の身分証明書などが必要になりますが、事前に公証役場に確認をしておくとよいでしょう。

会社住所の確保

登記申請に際しては、登記申請書には会社住所を記載する必要があります。しかし、まだ会社が存在していないため、会社が事務所を賃借することはできません。そこで、下記のような方法が一般的です。 日本人役員か日本人協力者が個人の名義で契約締結し、会社登記完了後に会社名義に変更する。 英語による契約が可能なサービスオフィス(Regus、Servcorp、Wework、バーチャルオフィスなど)を利用し、発起人である外国法人が直接契約し、登記完了後に日本子会社名義に変更する。 登記申請書には日本人役員か日本人協力者の自宅住所を記載し、会社登記完了後に日本法人名義で事務所を賃借する

会社印鑑の用意

近年では印鑑の廃止が様々な領域で進んでいます。しかし、2024年現在において、会社が実印を持たず、全て電子的な方法で署名をするというのには、まだ不安があり、会社実印を持つ方が無難であると思われます。
会社設立の登記に際しては、会社の印鑑を法務局に届け出ます。この時、会社代表者個人の印鑑登録済みの印鑑が必要になります。会社代表者が外国人の場合には、本国にて認証を受けたサイン証明書を個人印鑑の代わりに提出します。
2021年2月以降は、設立登記申請をオンラインで行う場合には、印鑑の届出に代えて、法務局発行の電子証明書の利用が可能となりました。

参考記事
会社設立に際して決定すべき事項
株式会社か合同会社かの選択
日本に進出する外国企業が知っておくべき日本社会保険制度のポイント
外国会社が日本で営業するために必要な法令上の手続き(日本支店の設立手続き)