所得税法上、居住者、非居住者という言葉は所得税がどの範囲で課税されるのかを決定する上で重要な概念となっています。ここで居住者とは、国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人を言います(所得税法2条1項3号)。
この居住者/非居住者の区分について、住民税の納税義務との関係はどうなっているのでしょうか。
住民税の納税義務がある人とは、都道府県内及び市町村内に住所を有する個人であり、1月1日において、市町村にある住民基本台帳に記録されている人、いわゆる住民票がある人です(地方税法24条1項1号、2項、294条1項1号、2項)。所得税法上の居住者か、非居住者であるかは規定上は関係がありません(*1)。
逆に、所得税法上の居住者か非居住者かの判定に際しても、住民基本台帳に記録があるかどうかは、直接は関係ありません。住民票の有無は、日本に住所(=生活の本拠)があるかどうかを考慮する要素の一つにすぎません。
但し、所得税法上の居住者についても、住民税の納税義務者についても、「住所」の有無が重要であり、その意味するところは「生活の本拠」と言われています。
例えば、住民票をのこしたままであっても、1年以上の予定で海外赴任をすれば、海外へ出発した日の翌日から所得税法上の非居住者になります。この場合、非居住者であるにもかかわらず、1月1日現在で住民基本台帳に記録がある場合には、原則的には住民税の納税義務があることになると考えられます(仲谷栄一郎共著「国際取引と海外進出の税務」税務研究会出版局)。
しかし、住民基本台帳の記録と住所の実態が一致していない場合には、住所の実態の方を優先するとも読める規定があることから、必ずしも形式的に住民基本台帳の記録を適用するというわけではないとも言えるでしょう(*2)
租税条約との関係では留意が必要です。日本が締結している租税条約には、住民税を対象税目にあげている条約もあればあげていない条約もあります(*3)。
例えば、日本に駐在する外国人が、1年未満の滞在を予定しているため所得税法上は非居住者に該当する場合でも、国内に在留資格を持って日本に3カ月超1年未満の期間滞在する場合には、住民基本台帳に記載の対象となり(住民基本台帳法30条の45、入管法19の3)、住民税の納税義務者になると考えられます。
その上で、租税条約において住民税が対象税目なっている場合で、租税条約によって短期滞在者免税が適用されるのであれば、所得税及び住民税の両方が免税となります。
租税条約において住民税が対象税目となっていない場合には、短期滞在者免税の適用によって所得税が免税となった場合であっても、住民税の納税義務は残ることになると考えます(仲谷栄一郎共著「国際取引と海外進出の税務」税務研究会出版局)。
(*1) 2012年7月住民基本台帳法改正前には、住民税の納税義務者の取扱は、所得税法上の居住者の取扱と同様であり、原則として所得税の居住者が1月1日に国内に居住していた場合には住民税が課税されていました(上記中谷栄一郎共著、P661)。
(*2) 地方税法294条1項3項 市町村は、当該市町村の住民基本台帳に記録されていない個人が当該市町村内に住所を有する者である場合には、その者を当該住民基本台帳に記録されている者とみなして、その者に市町村民税を課することができる。この場合において、市町村長は、その者が他の市町村の住民基本台帳に記録されていることを知つたときは、その旨を当該他の市町村の長に通知しなければならない。
4項 前項の規定により市町村民税を課された者に対しては、その者が記録されている住民基本台帳に係る市町村は、第2項の規定にかかわらず、市町村民税を課することができない。
(*3) 住民税を対象税目に掲げている租税条約の締約国は、英国、イタリア、オランダ、中国を含め多数ありますが、他方で、米国、インド、オーストラリア、カナダ等の租税条約には住民税が含まれていないとのことです(上記仲谷栄一郎共著、P661)。
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