株式会社と合同会社の選択

会社の設立に際してはどの種類の会社を設立するかを決定する必要があります。

会社法上は4つの種類の会社が規定されていますが、実際には株式会社か合同会社のどちらかを選択することになります。

本記事では、両会社の意義、特徴、選択に際しての考え方を解説します。

なお、税務上は、株式会社か合同会社という区別はなく、どちらも「法人」として同じ取扱け、税金計算上の有利不利はありません。

 

1.株式会社と合同会社の意義

 

有限責任

株式会社も合同会社も、出資者がその出資の範囲までしか会社債権者に対して責任を負わない、有限責任という点で同じです。会社債権者は会社の財産がなくなったからといって、出資者個人の財産にまで手を出すことはできません。

ネットで英訳を調べると、合同会社は「LLC (= Limited Liability Comapany)」、株式会社は「Co., Ltd.(= Company Limited)」という説明が多いようです。

しかし、LLCもCo.,Ltdもどちらも直訳をすると有限責任の会社という意味であり、違いがありません。

アメリカにはLLCと呼ばれる会社の法形式があり、法人の所得ではなく出資者の所得に課税をするパススルー課税が採用されています。これに対して日本の合同会社は法人の所得に対して法人税が課税される点が大きく異なり、LLCという英訳には違和感を感じます。

個人的には、Kabushiki kaisha, KK, Godo kaisha, GKというローマ字書きであれば、語弊がないと思います。

 

所有と経営の分離

理念的には、合同会社は「所有と経営は一致している」のに対して、株式会社においては「所有と経営は分離している」という点が異なります。

合同会社は、少数の出資者が同時に経営者であり、出資者間相互に人的信頼関係ある会社を想定しています。

他方で株式会社は、大規模な資金調達が可能になるように多数の出資者(株主)と会社債権者を想定しており、株主及び会社債権者を保護するためのガバナンスに配慮した会社組織を想定しています。

なお、株式会社においても株主が自ら取締役として経営を行うことは可能であり、所有と経営の分離が徹底されているわけではありません。

 

持分の譲渡(投下資本の回収方法)

合同会社においては、社員相互の信頼関係が重視されるため、持分の譲渡には原則として他の社員の承諾が必要とされます(会社法585条1項)。株式会社においては株式は自由に譲渡できるのことが原則ですが(株式譲渡自由の原則)、一定程度、制限を設けることが可能です。

 

2.株式会社の特徴

株式を発行できる

      • 株式会社は、金融市場に上場することで大規模な資金調達が可能です。将来は大企業になることを目指している会社には株式会社が適しています。
      • 株式自体を役員・従業員への報酬として設計することが可能です(ストックオプション、RSU、ESPP)。
      • 従業員持株会によって株式を利用した事業承継対策ができる、他社と株式を持合うことによって業務提携関係を深める、といった対策を打つことが可能です。
      • 好ましくない者が株主となることを防止するために、株式を譲渡するには取締役会の承認を要するという制限を設けることが可能です。このため、少数の株主による信頼関係が重視されるような小規模な会社にとっても、株式会社形態は適しています。

     

  • 機関構成が複雑

    株式会社においては株主総会、取締役、取締役会、監査役、監査役会、会計監査人、委員会といった機関が想定されています。小規模な企業であれば株主総会と取締役のみ設置すれば足りシンプルです。会社の規模、株式譲渡制限の有無等によって、取締役会や監査役等の機関設置が義務付けられます。

  • ガバナンス重視

    株式会社の場合には、多数の株主、会社債権者等を保護するためのガバナンスに重点が置かれ、会社の信頼性を確保するように制度設計がなされています。上場企業になると、金融商品取引法や金融商品取引所ルールが適用され、大規模な株式会社になるほど社会の信頼性を確保するための制度的な手当がなされています。

    例えば、

        • 株式会社は、一定の場合、取締役会、監査役会などの監督機関の設置が義務付けられています。
        • 大会社(資本金5億円以上または負債合計額200億円以上)の場合には公認会計士等による会社法会計監査が義務付けられています。
        • 大会社且つ取締役会の設置会社は会社法上、内部統制の整備が義務化されています。
        • 上場企業の場合、会社法による会計監査の他に、金融商品取引法によって財務諸表監査が及び内部統制監査が義務付けられています。

     

  • 3.合同会社の特徴

    設立費用を抑えられる

    株式会社の場合は、登記申請の際に登録免許税として資本金の1000分の7(但し、最低金額は15万円)の収入印紙を添付して申請することが必要となります。これに対して合同会社の場合は、登録免許税の最低金額は6万円とされており、株式会社の場合と比較して9万円安く済みます。

    また、株式会社設立の時には必要される定款認証が合同会社ではないため、これに係る手数料3万円~5万円が安くなります。

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  • 会社運営面での自由度が高い

    合同会社には、株式会社でいう取締役、取締役会、株主総会の制度がありません。出資者である社員が自ら会社の業務を運営するのが原則であり、社員が2人以上の場合は、定款に別段の定めがある場合を除き、社員の過半数をもって決定するとされています。

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  • 公告しないでよい

    株式会社は、決算期ごとに決算の数字を官報、新聞又はホームページ上に公表することが義務付けられていますが、合同会社は義務付けられていません。

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  • 資本金払込みに際して銀行口座がなくてもよい

    株式会社設立の場合には、資本金の払込みは銀行口座において払込をしなくてはなりません(会社法34条)。しかし合同会社の場合にはこのような規定がないため、出資金について代表者が領収書を発行すればよいとされています。

    外国人、外国企業が日本に子会社を設立する場合、日本の銀行口座を事前に用意することは容易ではありません。銀行口座がなくても合同会社であれば設立は可能です。

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  • 4.株式会社と合同会社で迷ったら

    一般論として

    少数の出資者による人的信頼関係が重視され、出資者の交代を想定しない場合には合同会社の方が適していますが、株式譲渡制限を設けることによって株式会社でも適応可能です。

    他方で、企業成長を目指して多数の出資者と会社債権者が想定される場合には株式会社が適しており、合同会社は適していないと考えられます。

    この点、適応範囲が広い株式会社を優先しても良いでしょう。

    スタートアップ企業

    将来的には企業規模を大きくしていきたい場合には、株式会社が適していると思われます。

    株式を上場できるのは株式会社であり、株式を用いた報酬プランの設計が可能である、といったメリットを生かすことができます。

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  • オーナー会社

    出資者は自分1人だけであり、将来的にどの程度の規模を目指しているかは分からない、目の前の設立費用を低く抑えたいという場合には、とりあえず合同会社で良いと思われます。

    運営面でも機関設計に気を使う必要がありません。将来的に株式会社への組織変更は可能です。

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  • 子会社

    会社がその子会社を設立する場合、親会社からある程度独立して意思決定をし、独立した事業を行う予定の場合には株式会社が良いと思われます。

    逆に親会社のコントロールの下、独自の資金調達や独自の意思決定を行わない場合、且つできるだけ外部に情報をディスクローズしたくない場合には、公告義務がない合同会社の方がよいと思われます。 

参考記事
外国法人による日本子会社設立

会社設立 決定すべき事項