香港からシンガポールへ、地域統括会社の移転

先日まで香港でのデモ活動の様子がよく報道されていましたが、新型コロナウイルスの影響でデモは沈静化したのであろうと思います。私のクライアントの一社もそうですが、香港からシンガポールへ地域統括会社を移転する動きがあるようです。地域統括会社を移転する場合の税務上の留意点について確認したいと思います。

ご質問

当社は、日本のメーカですが、海外子会社にて生産を行っています。日本親会社(当社)が香港子会社の株式を100%保有し、香港子会社が中国に2社の生産会社を、シンガポールに1社を保有しています。香港が地域統括会社であり、生産機能を有する中国子会社2社が被統括会社という位置づけでいます。

今般、諸々の国際的な事情を考慮した結果、今後はシンガポールを地域統括会社とし、香港の子会社は休眠会社とする予定です。

スキームとしては、香港子会社がその子会社の全部(シンガポール、中国2社)の株式を日本の親会社に現物で配当することで海外子会社をいったん、日本親会社の直接子会社にし、次にシンガポール子会社に対して中国2社を現物出資する予定です。

香港子会社からその海外子会社株式を現物で配当するに際しては、日本親会社にて外国子会社益金不算入制度の適用はあるのでしょうか。制度としては、適格現物分配、株式分配という言葉もありますが、これは本件にどう関係してくるのでしょうか。

外国子会社益金不算入制度

外国子会社益金不算入制度とは、外国子会社からの配当金を受領した日本親会社において、一定の要件を満たす場合にはその配当金の95%を日本親会社の益金に算入しないという制度であり(法人税法23条の2)、重要な「節税」の手段と言えます。

原則として、日本の法人が外国子会社の株式の25%以上を配当の支払い義務確定日以前6カ月以上継続して保有している必要があります。

対象となる配当とは、法人税法23条の2第1項「剰余金の配当等の額」のことであり、ここからは特段外国子会社からの配当や現物分配による配当を除外する旨の規定はありません。よって、剰余金からの金銭による配当はもちろんですが、金銭以外の株式等の現物を配当した場合にも、外国子会社益金不算入制度は適用されます。また、資本の払戻し、解散による残余財産の分配、自己株式取得等の事由によるみなし配当に対しても適用されます(法人税法24条1項)。

但し、外国子会社からの現物による配当に関しては、それが日本の法人税法上の剰余金の配当等に該当するのかどうかを検討する必要があると考えます。外国子会社が所在する国において、その法制上、現物による配当が認められていない場合には、日本の法人税法上も、現物の配当ではなく現物の「譲渡」とされる可能性があり、その場合には外国子会社益金不算入制度の適用なないということになると考えられます。

令和2年税制改正においては、この外国子会社益金不算入制度と子会社株式譲渡を組み合わせることによって多額の譲渡損失を創出させるという租税回避的なスキームに対応するために、新しい制度的手当てがされています。

株式分配

現物分配とは、法人がその株主等に対して利益配当等に際して金銭以外の資産の交付をすることを言います(法人税法2条12の5の2)。

法人税法上の株式分配とは、配当の対象となる現物が株式であり、下記の要件を満たすものを言います(法人税法2条12の15の2)。

  • 現物分配の対象となる資産は、現物分配法人(配当をする子法人)が有する完全子法人株式の全部であるもの。
  • 被現物分配法人(配当を受ける親法人)と現物分配法人との間には完全支配関係がないもの。

本件に当てはめてみると、配当を受け取る御社(被現物分配法人)と現物分配法人である香港子会社が完全支配関係にある場合ため、「株式分配」には該当せず、現物分配として扱うことになると考えます。

*完全支配関係とは、基本的には親会社が子会社株式を直接又は間接に100%保有している場合、又は同一の親会社によって100%保有されている子会社同士の関係を言います(法人税法2条12の7の6)。

適格現物分配

現物分配は、さらに適格現物分配と非適格現物分配に分かれます。適格現物分配とは、現物分配法人と被現物出資法人がともに日本の法人であり、かつ完全支配関係にあるものを言います(法人税法2条12の15)。ご質問者の場合、被現物分配法人である香港子会社が外国法人であるため非適格現物分配になります。

非適格現物分配の処理

被現物分配法人の処理

被現物分配法人である日本親会社の処理としては、現物分配法人である香港子会社から移転を受けた資産(シンガポール子会社株式)をその時の時価により取得したものとして扱います(法人税法施行令119条1項27号)。

現物分配法人が日本の会社であれば、会社法に基づき、原則として株主総会により、利益剰余金の配当なのか資本の払戻等なのかが決議されます。現物分配法人が香港の会社の場合には、利益剰余金の配当か資本の払戻等なのかがどのように決定されるのかは現地の専門家に確認する必要があるでしょう。

利益剰余金の配当の場合には、現物分配法人から移転を受けた資産のその時の時価により受取配当金が生じ、外国子会社益金不算入制度の適用によりその95%が益金不算入になります(法人税法23条の2第1項)。

(借方)資産 (貸方)受取配当金

他方で、資本の払戻等により資産の交付を受けた場合においては、「みなし配当」の規定により配当金とみなされた金額(*)が、外国子会社益金不算入の対象になると考えられます(法人税法24条1項4号、2条12号の5の2ハ、23条の2第1項)。ご質問者の場合、現物分配法人である香港子会社が外国法人ですが、香港子会社が行った資本の払戻による現物分配が、日本の法人税法上の資本の払戻による剰余金の配当(法人税法24条1項4号)に該当すると認められることが前提になります。

資本の払戻等により金銭その他資産の交付を受けた場合には、被現物分配法人においては、所有している被現物分配法人株式の譲渡があったものとして、その譲渡損益が生じます。

(借方)資産 (貸方)受取配当金
(貸方)現物分配法人株式
(貸方)株式譲渡損益

(*)みなし配当の金額=交付を受けた資産の価額 - 資本金等の額 × (資本剰余金の減少金額/純資産の金額) × 持株割合

現物分配法人の処理

本件の場合、現物分配法人は香港子会社であるため、香港の税法に準拠して税務処理を行うことになります。

仮に、現物分配法人が日本の法人である場合には、被現物分配法人に対して、その交付をした資産を時価により譲渡をしたものとして取扱い、譲渡損益を認識します(法人税法62条の5第1項)。

現物分配が利益剰余金の配当である場合には、

(借方)利益積立金額 (貸方)現物分配法人株式
(貸方)株式譲渡損益

現物分配が資本の払戻等である場合には、

(借方)資本金等の額(*) (貸方)現物分配法人株式
(借方)利益積立金額 (貸方)株式譲渡損益

(*)減資する資本金額= 資本金等の金額 ×(資本剰余金の減少金額/純資産の金額)