日本に居住していない外国人、外国企業(以下、「非居住者」という)がアマゾン等のECプラットフォームを利用して日本国内の消費者に販売する予定であるとき、非居住者は日本に商品を輸送し、アマゾン倉庫に運搬することになります。
この場合、当該非居住者が「輸入者」であり、関税及び輸入消費税の納税義務者になります。
非居住者が日本に輸入をする場合、日本に住所を有する者の中から税関事務管理人を定めてその氏名及び住所等を届け出なくてはなりません(関税法95条)。
税関事務管理人(ACP=Attorney for Customes Procedures)とは、税関と非居住者との間における書類の受領及び提出、還付金の受領等を、非居住者の代理で行う者を言います。その趣旨は、非居住者と税関当局との間の連絡役を確保することにあると考えられます。
仮に税関事務管理人を定めない場合には、実務上、非居住者は「輸入者」として手続きをすることができないため、第3者の名義を借りて輸入手続きを行っているものと思われます。
税関事務管理人を定めない場合には、輸入消費税の還付を受けることが難しくなり、取引の採算性に無視できない影響を与える可能性があります。本記事では、税関事務管理人を定めずに輸入手続きを行うとどのように不利益を被るのかを、消費税計算の仕組みから詳細に解説をいたします。
非居住者が日本に貨物を輸入する場合、消費税は下記のように関係します。
非居住者が輸入した貨物を税関から引取るためには、輸入申告を行い、関税及び輸入消費税を税関に支払わなくてはなりません。輸入消費税の金額は商品価格の10%です。
例:商品価格の総額が年間24,000,000円の時、輸入消費税は10%の2,400,000円です。
非居住者が消費者に商品を販売をした時に代金を受領しますが、その受領した金額には10/110だけ消費税が含まれています。例えば販売代金として年間33,000,000円を受領すると、3,000,000円の消費税を預かることになります。
非居住者はアマゾン等を利用しているので、アマゾン等に対して利用料を支払います。
・配送代行手数料、在庫保管料であれば、当該非居住者がアマゾンに支払う金額のうち、10/110だけ消費税が含まれています。例えばアマゾンへの支払いが5,500,000円であればそのうち500,000円が消費税の支払いになります。
・出品手数料、広告費用の場合、これらは消費税法上は「電気通信利用役務提供」に該当し、当該非居住者がアマゾンに支払う金額には消費税は含まれていません。
非居住者は基本的に1年に一度、消費税の確定申告書を所管の税務署に提出します。
納付する消費税は次のようにして算定します。
納付する消費税(100,000)=②販売時に消費者から受領した消費税(3,000,000)-①税関で支払った輸入消費税(2,400,000)-③アマゾン等への支払いに含まれている消費税(500,000)
上記の式にて、①③の消費税をマイナスすることを「仕入税額控除」といいます。仕入税額控除の金額が大きく、納付する消費税がマイナスとなるときは、消費税の還付を受けることになります。
このように消費者から預かった消費税から支払った消費税を控除する計算方式を一般課税方式と呼びます。
上記は、非居住者がACPを定めて自己の名義輸入手続きを行っている場合です。仮に、当該非居住者がACPを定めておらず第3者名義で輸入手続きを行っている場合には、明確な規定はありませんが、非居住者は輸入消費税を仕入税額控除することは基本的にはできなものと考えます。当該非居住者が輸入消費税を負担したことを輸入許可書等の書類によって確認することができないためです。
輸入消費税を控除できない場合には、納付する消費税は2,500,000=②3,000,000-③500,000となり、非常に大きな不利益を受けることになります。
日本での売上高が5000万円以下の小規模な非居住者の場合、上記に説明した一般課税の方法ではなく、簡易課税方式、又は2割特例方式によって消費税を計算することが可能でした。しかし、2024年4月には非居住者にとって不利な方向で消費税法が改正されました。2024年10月1日以降に開始する課税期間から、非居住者は簡易課税及び2割特例の適用ができず、一般課税の方法のみを適用することになりました。
これにより、規模の大小に関係なく、全ての非居住者にとって、輸入消費税の仕入税額控除が可能かどうかは重要な問題となりました。
非居住者が日本に輸入をする場合には税関事務管理人を定める必要があります。定めない場合には、輸入消費税を控除することができず、多額の消費税を納付することになります。
税関事務管理人は、日本に住所を有する者であれば法人でも個人でもなることができ、関税実務について専門知識を有することは要件とはされていません。
弊事務所は税関実務の専門家ではありませんが、弊事務所のお客様である非居住者のために税関事務管理人を務めることは可能です。
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