管理支配準とは、問題となっている海外子会社は、自らの事業を自ら管理運営しているのかどうか、という基準です。この基準を満たなければ、当該海外子会社は実体の乏しい会社であるとして、タックスヘイブン課税を受けることになります。
例えばですが、株主総会や取締役会を開催していない、役員の職務執行は現地ではなく日本で行われている、会計帳簿の作成は親会社が行っている、業務上の重要事項は全て親会社が行っている、ということであれば、自らの事業を自ら行っているとは認めがたく、タックスヘイブン課税を受ける可能性があるでしょう。
管理支配基準に関する代表的な裁判事例としては、安宅事件とレンタルオフィス事件があります。両社は似たような事案であるにもかかわらず、安宅事件では管理支配基準を充足していないと判断され、レンタルオフィス事件では管理支配基準を充足していると評価され、正反対の判決を受けました。
両判決において、管理支配基準における判定の違いが、どのようにして生じてきているのか検討してみたいと思います。
結論を先に言いますと、管理支配基準に係る両判決の結論を分けた重要なポイントは、役員レベルがどれだけ主体的に現地にて活動しているか、であると思われます。従業員レベルでの業務実態の有無は、役員レベルほどには重視されていないという印象です。
香港又はシンガポールに卸売業を行う子会社を設立。当該卸売業の子会社が管理支配基準を満たすかどうかが争点となりました。
親会社が当該子会社に製品を販売し当該子会社がそれを第3者に転売する、
又は第3者が当該子会社に製品を販売し子会社はそれを親会社に転売する、という商流です。
管理支配基準を満たさないとされた安宅事件では、従業員は直接雇用であり、実際に決済業務を行っています。定例的な裁量の余地のない業務のようですが、従業員レベルでの業務実態はキチンと存在していると思われます。他方で、役員レベルについては、常勤役員がいるとはいえ、役員として独自の意思決定をおこなってはおらず、役員としての機能が存在していないという印象です。親会社が重要なことも些細なことも全てについて取り仕切っているからです。
レンタルオフィス事件では、安宅事件とは逆で、従業員レベルの実態は多少怪しいのですが、役員レベルでは主体的な業務執行が行われていたと評価できます。
従業員は会計事務所から派遣されてきた派遣従業員のみであり、業務は派遣元の会計事務所で行っています。これでは、当該子会社の従業員として業務を行っているのか、会計事務所の従業員としてクライアント会社の事務を行っているのかを外形的に判別することは困難です。この点。課税当局は従業員としての実態がないと評価しましたが、裁判所は、そこまで推認することはできない、という意見です。
他方で、役員レベルについては、常勤役員は、子会社の経営を全般的に任されており、親会社の関与を受けることなく独自の意思決定を行い、従業員及び業務委託先を指揮監督していたといえます。
確かに、当該役員は、同時に当該会計事務の経営者であるため、当該役員の業務が子会社の役員としての業務なのか、会計事務所の経営者としてクライアント業務を行っているだけなのかが外形的に判別することは困難です。しかも子会社からの報酬は無報酬であるため。なおさら子会社のために業務を行っていたかどうかはわからなくなります。
しかし、当該常勤役員は、新規顧客の開拓、重要なクレーム処理、従業員への指示監督を行っていました。当該役員の子会社への関与を精神的に後押しするためにという理由で、当該役員は子会社株式の1%を保有しています。
以上の分析からのインプリケーションとして、管理支配基準を充足しているかを判定する上で重視されているのは、役員レベルの業務実態の有無であり、従業員レベルでの業務の実態というのは、役員レベルほどには重視されない、と思われます。
| 安宅事件 | レンタルオフィス事件 |
結論 | 管理支配基準を満たさない | 管理支配基準を満たす |
従業員 | ・子会社が直接雇用している従業員が2名いる。 →実際に決済業務を行っている。 | ・子会社の従業員は会計事務所からの派遣従業員のみ。直接雇用者はいない。 →子会社の従業員としての業務なのか、会計事務所の従業員としての業務なのかが外形的には不明確。 |
従業員の職務 | ・主に決済業務。信用状の発行依頼、為替手形の決済、代金の振り込みなど →定型的な業務のみを行い、裁量がない。 | ・営業実務を行う。顧客への見積もり提示、注文の受付け、クレーム処理など。 |
親会社の関与 | ・親会社が取引相手との取引交渉(価格、期日、製品など)、製品の輸送手続き、クレーム処理、債権債務管理を行う。 ・新事務所の内装や披露晩餐会の開催といった事項についても親会社の決裁を仰いでいた。 →重要なことも些細なことも親会社が意思決定している。 | ・重要事項以外には関与しない。
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現地の常勤役員の職務 | ・現地役員全員が親会社役員を兼務 ・うち一人常勤役員。 →役員としての「実態」が疑われる。 | ・常勤役員は、業務の全般について意思決定の権限を与えられていた。 ・営業担当者の指揮監督、銀行取引の管理、株主総会の準備、会計帳簿作成の会計事務所への指示、債権回収などを行う。 |
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